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manoの食卓を囲み、全てのつながりを感じる
食卓mano/村上卓磨

Prolougue

contents

Story1 シェフの物語

小さな町に惚れ込んだ料理人

突然だが、「網田」と言う地域をご存知だろうか。熊本県宇土市にある上網田町と下網田町の総称で、人口2000人にも満たない小さな町。熊本のほぼ中央部、海に向かって大きく伸びる宇土半島にあり、温暖な気候と豊かな自然、そして有明海。さまざまな食にも恵まれた地域だ。

キラキラと輝くタカラモノのような食材が溢れているにも関わらず、「網田の食材だから買いたい」というほどのメジャーさはないのが正直なところ。だが、それも過去の話になろうとしている。

網田の食材・風土・文化に魅了され、一人の料理人が移り住んできたのだ。 それが、「食卓mano」の村上卓磨さん。

宇土市中心部で生まれ育ち、料理人になりたいと熊本を離れ、修行を重ねてきた卓磨さん。キッカケはアルバイトをしていたそば屋。そこでそば打ちを担当したことから、「当時は、そば職人になりたかった」というほど、料理の世界への興味が増していった。九州東海大学農学部を卒業後、和食の道へ進み、2年間、福岡の和食店で経験を積む。その後は、京都の料理宿に直談判。2年間を京都の山深い場所で過ごした。

「料理を作るだけでなく、自分たちで山菜を摘んだり、栗の木で箸を作ったり。そんなことばかりしていました。自分はこういうのが好きなんだって気づいた経験です。今思えば、網田にたどり着いたことにもつながっていますね」。

驚くのは、その後、イタリアンに転身したこと。「休日のたびに食べ歩きをしていて、ある日とても心惹かれるシェフに出会いました。京野菜をふんだんに使い、それぞれの素材の魅力を最大限に生かしたその料理に深く感動しました」。そこで、またまた直談判したと言う。

店での修行と並行して、年に1回訪れていたイタリア研修。ここに、「食卓」と名付けた原点があった。イタリアはスローフードの発祥の地であり、地域ごとの特色を活かした郷土料理があることで知られている。卓磨さんは、その食文化が、自分にピタリとハマったのだと言う。

さらに、イタリア人の考え方にも感銘を受けた。
「イタリアの人たちって、日曜の昼になると、家族で食事をするために帰るんです。家族の時間を大切にしていて、食卓を囲むのは当たり前。その文化が素敵だと思いました」。

「ここも、そんな場所になれたら」。そう願いを込めて名付けたのが「食卓mano」だ。家族の時間を大切にするように、食事を囲んで一緒に過ごす「食卓」。そして、イタリア語で「手」を意味する「mano」。私たちがいただく料理には、いろんな人の手と手が繋がっている、ということだ。

Story2  生産者との物語

生産者との物語「手と手と、手と手」

卓磨さんの料理の多くは、天草・宇土半島の食材が使われている。これは、イタリアの郷土料理のように、風土をうつした「食卓mano」の料理にはごく自然なことだ。

京都時代から、網田に憧れを持ちリサーチを重ねていた卓磨さんだが、宇土が故郷ではありつつも、長く離れていたこともあり人脈はほぼゼロ。幾度も足を運ぶも理想の土地にもなかなか出会えず、まずは戸馳島にある「花のがっこう」で店を開くことにした。

「洋らんの栽培が盛んな地域で、『花のがっこう』はその魅力を伝える施設でした。そこでお店を営業できたことで、たくさんの方に出会いご縁が繋がっていきました。今、お世話になっている方々に出会えたのも、今の場所に出会えたのも、『花のがっこう』があったから。どれも欠けてはいけない時間でした」。

こうして出会った人、そして食材、器……、一つひとつが「食卓mano」にとって欠けてはいけない。語り尽くせない出会いのほんの一部を、ここでご紹介したい。

お店の窓から見える景色には、海も山もある。

まずは、海の話から。コースのメイン料理に欠かせない海の幸を支えるのは、「湊鮮魚」の赤松大志さん。熊本の台所「熊本地方卸市場(通称・田崎市場)」で17年間、魚に関するありとあらゆる経験を積み、2016年に三角港に自身の店をオープンさせた。「食卓mano」と同じタイミングでのスタートは、自然と二人を繋げた。

取材の最中、赤松さんの携帯が鳴る。地元漁師からの電話を切り、「いいブリが揚がったみたいなんで、ちょっと行ってきてもいいですか」と取材陣に告げ、軽トラに乗り込む赤松さん。卓磨さんは、なんと走って追いかけた。そのくらいの距離感で水揚げされるのだ。

その日一番の活魚が悠々と泳ぐいけす。「こんなにお店から近い場所で、目の前の海から水揚げされた、新鮮で美味しい魚を仕入れることができるのが幸せで」。

眺めている卓磨さんの目は子どものように輝いている。

山に目を向けると、イタリア野菜などを育てる「畑ト台所 H -Farm」、そしてレモンを育てている農家の「本田農園」も欠かせない。店から車を数分走らせると、どちらの畑にもたどり着けるご近所さんだ。

「畑ト台所H-farm」の畑には、イタリアの黒キャベツ「カーボロネロ」や、イタリアの菜の花「チーマ・ディ・ラーパ」といった、聞き慣れない名前の野菜が元気いっぱいに育っている。多品種少量有機栽培を行う本田やすはるさんときえさん。「個性が強い品種が好きなんです」と、珍しい品種を見つければタネを手に入れ、苗づくりから行う。卓磨さんが、欲しいなと相談した野菜にも、快くチャレンジしてくれる。

「お二人の野菜は、美味しいのはもちろん、料理に彩りを加えてくれるんです」と卓磨さんも大絶賛。

「今、養鶏にもチャレンジしているんです。いずれはすべての食を賄えるようになるのが夢ですね」。やすはるさんの言葉にピクリと反応する卓磨さん。新たな網田産食材が増えることに、喜びを隠しきれない様子だ。

「この食材があるから、このメニューが生まれた」。「食卓mano」の料理は、それに尽きる。奥さまの朝子さんが手がけるレモンケーキが、まさにそれだ。

長年、レモンのお菓子を中心に作るパティスリーで活躍してきた朝子さん。お店を辞め、熊本でのオープンを決めた時、「今後はレモン以外のお菓子を作っていきたい」と考えていた。ところが、いつの間にかご縁がつながり、衝撃のレモンに出会うことに。

それが、本田やすはるさんの父・本田一幸さんが手がける、「本田農園」のレモンだ。「食べたときに、他のレモンとは全然違ったんです。香りも高く、果汁の味わいも深くて。これはレモンケーキを作らなきゃと思いました」。普段は穏やかな朝子さんも、このレモンの話になると興奮気味。

「柑橘というと日当たりのいい傾斜で育つイメージですが、本田さんのレモン農園は森。竹林に囲まれていて守られるように育っています」。卓磨さんも同じく興奮気味。

農薬・化学肥料・除草剤を使わない、有機栽培で育てた旬の農産物を届ける「熊本のいのちと土を考える会」。立ち上げメンバーの一人でもある本田一幸さんは、このレモンをはじめ、野菜やレンコンなどを網田で作り続けている大ベテランだ。

店の器やトレー、照明に至るまで、つくり手の顔が浮かぶ。ゲストを迎えてくれる扉、そのドアノブは、上天草市・野釜島の木工作家「DRAMA STUDIO」吉田健吾さんが作ってくれた。

吉田さんもまた、「食卓mano」のオープン時期に、熊本に移住し本格的に木工作家として歩み始めようとしていた。「こんなお店で扱ってもらえたらな、なんて妻と話しながら、お店に通っていましたね」と吉田さん。卓磨さんも、「近くに木工作家さんがいないかなって考えていたら、吉田さんから声をかけてもらったんです」。ここでも運命の出会いが生まれた。

吉田さんの作品には、アトリエの裏山や天草の木が使われている。卓磨さんの理想そのもの。丸太で届いた材木を自らチェーンソーでカットする重労働から始まる。この苦労があるからこそ、代表作の一つ「茶盆-sabon-」を生み出せると言う。木のパーツを組み合わせるのではなくくり抜いていく。途方もない作業だ。

「吉田さんは使っていく先まで考えてくださるんです。料理と器、それぞれがそれぞれを引き立て合うという感じ」。

卓磨さんが手にするのは、今回オーダーした敷板。伝えた希望は「野良っぽさ」。「自然で器っぽさのない器、器に見立てた器」だと言う。

「お二人のオーダーはいつも抽象的。それが、自分の目標になって、答え合わせしながら近づけていくんです。結果、私自身も想像していなかった作品が完成したりして(笑)」。今回の敷板は、あえて、吉田さんらしさ、作風を消し、「食卓mano」の一部になっていく作品を仕上げていく。

「いつか、梅田さんの器を使いたいと思っていたんです」。窯元巡りで訪れ、その後、憧れの存在となった網田の陶芸家・梅田健太郎さん。土も釉薬も、すべて宇土半島のものを使用し、のぼり窯の薪さえも自給自足。

捨てるものはないという。これほどまでに追求した陶芸家は、おそらく日本では珍しいだろう。

「食卓mano」に関わる一人ひとりが、実に個性的で魅力的。
「類は友を呼ぶ」。この言葉がピタリとハマる。

Story3 プレミアムコース

一緒に囲む食卓

さあ、お二人と共に、食卓を囲もう。
店を訪れると、まずはそのままテラスへ。網田の町とその先に広がる海、パノラマに広がるのどかな景色を眺めながら、朝子さんが淹れてくれたお茶をいただく。

宇土で約60種ものハーブを育てる「熊本ハーブ園レモングラス」のハーブティー。この日は、ローズマリーとハイビスカス、ローゼルが用意された。

席に置かれたお品書きは、実にシンプルだ。

「出汁」「海、里、山」「庭から」「還る」
「檸檬の森」「冬の朝」「閉寒成冬」
「共鳴」「冬の空」「詫びと寂び」

文字で伝えすぎないのは、感じて欲しいという想いから。これから始まる時間に胸が高鳴る。

「出汁」

ヤガラとハマグリを「H-farm」の赤かぶで包んで蒸し上げ、その上にカボスをひと削り。

さらに魚介と野菜の出汁を注いでいただく。ハーブティーで温まり、さらに出汁で温まる。食事をいただく準備が、体の中かからととのっていくような、やさしい一品目だ。

「還る」

整理整頓された厨房の中には耐熱レンガが組まれた炭火焼きのスペースがある。ヒラメは「湊鮮魚」から仕入れたもの。白菜で包み炭火焼きする。

「H-farm」が手がけるカーボロネロやニンジンを炭火焼きし、ドライのレンコンもトッピング。ジャガイモとコノシロのアンチョビソースでいただく。どれも一つひとつ、丁寧に仕上げられた料理を口にすると、「食卓mano」を支える人々への感謝の心を感じるようだ。

「檸檬の森」

網田に来て衝撃を受けた本田一幸さんのレモン。その名がつけられたメニューが5品目に登場する。手打ちパスタは、卓磨さんが朝からイタリアの伝統的なパスタ道具「トルキオ」を使って絞り出したもの。ザラっとしたパスタに仕上がり、ソースがよく絡むと言う。

仕上げはゲストの目の前で。手練りのバターやパルメジャーノレッジャーノ、そして削りたてのレモンの香りに包まれたパスタが完成。

「窯焼きフォカッチャ」は、「ろのあ」の有機栽培小麦を使用したもの。オレンジのオリーブオイルといただけば、これもご馳走になる。

「共鳴」

ゲストをもてなす卓磨さんは、あちらこちらを行ったり来たり。厨房だけでなく、裏口に設けた竈も活用し、魚のメイン料理を仕上げに取り掛かっている。

ワタリガニ、ムラサキ大根、柑橘の皮など、土鍋で作るリゾット。薪火で焼き上げた天然ブリを乗せたらゲストの元へ急ぐ。

自身の事は多く語らない卓磨さんだが、生産者さんの話は止まらない。リゾットをサーブしながら、この一皿に込められた、たくさんの人たちの物語は、いつまでも聞いていたくなる。

お二人とおしゃべりをしながら、食事をいただいたり、窓の外をぼーっと眺めたりしていると、少しずつ外の景色も変わってくる。

「冬の空」

卓磨さんの動きを見ながらサービスを行ってきた朝子さんが、デザートの仕上げに入った。出てきたのは「ムラングシャンティ」だ。キャラメルメレンゲを崩しながら、季節のフルーツとマーマレード、レモンの生クリームとレモンのカスタードクリームを混ぜていただく。

それぞれの味わいが一つにまとまり、口いっぱいが幸せな気分に。これが、まさに「口福」。無くなるのが惜しくなる。

「侘び寂び」

全ての食事を終え、ほっと一息ついていると、お二人が「こちらへどうぞ」と促してくれた先には、なんと茶室が。お抹茶とお菓子をいただきながら、料理の感想や網田のこと、いろんな話に花が咲く。

そうこうしていると、なんと4時間も経っていた。

「食卓mano」は、単に美味しい食事を素敵な空間でいただく、だけではない。友人を招くホストのように、私たちを迎えてくれる卓磨さん。そして、朝子さん。お二人に会いに何度も何度も通うファンが実に多い。これこそが、「食卓mano」の魅力だろう。

帰り際、手渡されたお土産と共に店を後にすると、いつまでも手を振って見送ってくれるお二人。帰路につき、いただいたレモンケーキを食べると口福の時間が蘇ってくる。

「また、一緒に食卓を囲んで楽しみましょう」。
お二人に会いに行きたくなるはずだ。

店舗情報

住所:熊本県宇土市下網田町1591-6

TEL:080-5625-6044※完全予約制

営業時間:12:00〜 4時間ほど「食卓mano」でのひとときをお楽しみください。

定休日:不定休

公式HP:https://taku-mano.com

プレミアムコースのご予約

プレミアムコースは熊本の四季折々の食を楽しんでいただくために、各店舗の食材で内容が変わります。内容については店舗に直接お尋ねください。

コース名:食卓mano プレミアムコース「団欒danran」

料金:22,000円/(税込)

TEL:080-5625-6044※完全予約制

予約方法:電話(対応言語:日本語)、Instagram DM(対応言語:日本語)

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