万能酒「赤酒」 (葺屋)
今回は、前回のコラム(からすみ作り)で登場した「赤酒」をご紹介します。
熊本市の南部にある「川尻」は、早くから海外との交易港として開け、桶や刃物づくり、染物などの伝統工芸が盛んな地区です。この地に1867年(慶応3年)に創業したのが「瑞鷹株式会社」。瑞鷹の主力商品である「赤酒」は、製造途中に木灰を加え絞るという日本古来の酒の製法を受け継ぐ、熊本地方の伝統酒です。熊本では、お正月の「お屠蘇」として、長年県民に愛されています。
この赤酒を調味酒として作り上げたのが「料理用東肥赤酒」です。微アルカリ性である東肥赤酒は、みりんや他の料理酒とは違い、素材のタンパク質を固めずに仕上げることができるため、魚や肉の身を締めずふっくら柔らかく仕上げることができます。もちろん、うま味、甘み、テリ・ツヤなどの調味効果も十分。近年、この調味効果が注目され、全国の板場で使われる料理酒として需要が拡大しています。
葺屋でも赤酒は欠かせない調理酒で、煮物、奈良漬けなど、カラスミ作り以外にも使われています。「赤酒を使うと、お酒に合う料理ができる」と太鼓判を推す大将・葺屋修さんですが、今回初めて赤酒の製造現場を訪れました。
瑞鷹株式会社・取締役副社長の吉村謙太郎さんは、葺屋さんからプロの料理人が実際にどのように赤酒を使っているのかを聞き、逆に葺屋さんは、吉村さんから長年料理人として感覚的に得ていた赤酒の調味効果の科学的根拠を聞き、お互いに新たな発見があったようです。
生産のプロと料理のプロが互いに刺激を受け合い、また新たな「美食」に繋がっていくことは、食べ手である私たちにとっても嬉しいことです。