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自然と共に生きること。大地の恵みに満ちた人吉・球磨
旅館 翠嵐楼すいらんろう / 川野 主悦ちから

Prolougue

contents

Story1 シェフの物語

自然の脅威を乗り越えての再出発

令和2年7月に襲った豪雨災害によって、「翠嵐楼」は完全休業を余儀なくされた。「宿のすぐ横を流れる球磨川がいつもと違う!そう感じた矢先、浸水が始まりました」。「翠嵐楼」で料理長を務める川野主悦さんは、この場所で生まれ育ち、いつも球磨川と共に生きていた。

駐車場から浸水が始まり、宿の1階フロアの天井近くまで浸水してしまったのだ。幸いにも宿泊客・従業員ともにケガはなかったものの、水が引いた後の1階には土砂が蓄積し、絶望的な状況。1910年創業、110年以上の老舗宿に大きな壁が立ち塞がった。

発災から1週間が経過した頃、現地を訪れると、多くのボランティアの手によって泥は掻き出され床が見える状況にはなっているものの、宿の再開までは長い道のりだということは一目瞭然だった。「今まで以上にいい宿になって生まれ変わりますよ!」と社長の川野精一さんは、力強く語ってくれた。

…それから2年半が経過した2023年2月1日。生まれ変わった「翠嵐楼」は、ゲストが心から安らげる空間に進化。もちろん、人吉温泉の発祥でもある一号源泉「御影の湯」も見事に復活したのだ。

「自宅も被災しましたが、無事に住めるようになったのも、今、笑っていられる理由。せっかく生まれ変わるんだからと、レストランにカウンター席を設けるなど、やりたかったことを叶えました」と料理長の川野さんは、お気に入りのカウンターで話してくれた。

幼い頃から調理場をのぞいては、かっこいい料理人の姿に憧れていたという川野さん。「中学生の頃には厨房を手伝ったりして、将来は料理人になると決めていました」。大阪の専門学校に進学し、京都や東京で腕を磨き続けた川野さん。宿は長男の精一さんに託し、自身はふるさとに戻るつもりはなかったそう。

「32歳で呼び戻されて宿を手伝うようになったのですが、当時は地域の魅力が分からず…。さまざまな人との付き合いが広がっていく中で、食材の豊かさに気づき、伝えたい!と思うようになりました」。次第に、献立にも地産地消色が増し、人吉・球磨の恵みを味わえる内容になっていった。

「これまでの厨房の作りでは、ゲストと接する機会が少なかったので、直接伝えられるようにと、このカウンターを作ったんです。炉端焼きや揚げ物の調理をしながら、さまざまな魅力を伝えていきたいと思っています」。

「話下手」と言いながらも、大好きな食材の物語を流暢に語る姿から感じる、ふるさとへの愛情。料理が一段と美味しく感じるはずだ。

Story2  生産者との物語

お互いを高め合う、作り手との関係

人吉といえば温泉、そして球磨焼酎。人吉温泉の発祥の地でもある「翠嵐楼」では、つかるだけではない温泉の恵みを感じることができる。その一つが、温泉焼酎だ。

依頼したのは「福田酒造」。1935年創業の球磨焼酎の蔵元だ。米焼酎に飲泉の許可をとった温泉水で割水をした「にはち蔵」は、宿のオリジナル商品。

「焼酎をあらかじめ割っておく“前割り”という飲み方を商品化したもので、42度の焼酎を16度まで割ることで飲みやすいだけでなく、なじんでやわらかい仕上がりになりました。クセが少ない人吉の温泉だからできたことです」と5代目・福田寿一さん。川野さんとは25年ほどの付き合いで、たくさん酒を酌み交わしてきた仲。人吉・球磨の歴史と文化を支える一人だ。

川野さんが早くから注目していた食材の一つ「たもぎ茸」は、今では「幻のキノコ」「スーパー健康キノコ」と呼ばれ、全国的に話題を呼んでいる。西日本でも3~4件と言われる、たもぎ茸の生産者が、あさぎり町にある「アスリー」の川谷彰紘さんだ。

「たもぎ茸は人工栽培が厳しいと言われている希少なキノコなんです。うちでは、照明や湿度など、研究を重ねて自然界に近い環境で育てています」。川谷さんが栽培を始めたのは11年前というから驚きだ。

「翠嵐楼」で取り入れ始めたのは10年前。「別名・ダシキノコと言われるほど味が濃くて美味しいのが特徴。それに、黄色いキノコは、料理に彩りを添えてくれます」の川野さん。とはいえ、実は足が早いため、生食がスーパーなどに出回ることはほとんどなく、乾燥やサプリとして流通しているということ。産地が近いからこそできることだと話してくれた。

ゲストをもてなす要素に欠かせない器もまた、人吉・球磨にこだわりたいと川野さんが通うのが「穴窯工房 梓」だ。作陶家の田中健一さんは、川野さんを「ちからちゃん」と呼び、川野さんもまた「けんさん」と呼ぶ。けんさんが52歳で作陶をはじめて以来、20年以上の仲だという。

傾斜を利用した全長10メートルもある穴窯は、けんさんらによって作られたもの。「一般的な穴窯とは異なるので、相良焼と名づけています」とけんさん。地域の土を使い、地域の雑木を燃やして焼き上げる器は、釉薬を使わず炎と窯からの成分によって、同じものが2つとない唯一無二の景色を器に生み出すのだ。

「青井阿蘇神社の土を使い、社務所を解体した際にでた古材で焼きあげた小鉢も素敵ですよ」。川野さんが教えてくれた器の裏には“一”と記されている。

けんさんの器は、サインがなく値段もないので一般の方はなかなか購入できませんが、“一”は青井さんで展示されることもあるので、機会があったら手にふれてほしいですね」。いずれは、川野さん自身で器を作りたいと話しながら、窯の中を走る炎をいつまでも眺めていた。

Story3 プレミアムコース

丁寧に語り合いながらいただく、球磨川の恵み

「翠嵐楼」でのプレミアムな時間は、人吉・球磨の自然の恵みを存分に堪能する1泊2日。

用意された特別室は、窓から球磨川を見渡し、いつでも湯浴みが愉しめる半露天の温泉を備えている。それだけでも満足だが、3つの源泉を持つ宿だからこそ、宿内での湯めぐりも愉しんでほしい。

1号源泉「御影の湯」は、昔ながらの湯船に「弱アルカリ性単純温泉」が湛えられ、肌をやさしく包み込んでくれる。部屋の泉質と同じ「ナトリウム-炭酸水素塩・硫酸塩温泉」を露天風呂などでも堪能できる「翠山」「翠河」は、サウナも備え心身のリフレッシュにおすすめ。貸し切って利用できる「みどりの湯」は、「御影の湯」と同じ泉質名ながら、温泉らしい匂いを感じる湯。また違った、肌ざわりも面白い。

こんな風に、違いを感じながらの湯浴みが宿内でできるなんて、なんとも贅沢な時間だ。

お待ちかねの夕食は、もちろんカウンターで。川野さん自らが調理し、もてなしてくれる。

おしながきの多くに、人吉・球磨の地名がついた料理の数々は、川野さんを通して作り手の顔が見えてきそうなものばかり。

前菜をいただいていると、川野さんが見せてくれたのは元気に泳ぐ山女魚。目の前で串刺しし炭焼きされる。炭でじっくり焼くことで、ふっくらとした仕上がりに。「炭で焼いただけなんですけどね」。そんな言葉も、素材の旨味を存分に引き出したからこそ。

山江村産活〆 山女魚の原始焼き

「穴窯工房 梓」の器に盛られて提供されるのは、黒毛和牛のサーロインステーキ。こちらもまた目の前の炭火で焼き上げ休ませることで旨味を閉じ込めたもの。穴窯が生み出す器の景色が美しいからこそ、派手な盛り付けは不要。食材だけでなく、器の魅力も最大限に引き出すのが川野さんのスタイルだ。

特選黒毛和牛サーロイン炭火焼き

温泉シイタケやズッキーニ、ミニトマトを添え、わさび塩やニンニク醤油でいただく。「肉は屠畜して2カ月のものをブロックで仕入れ、形を揃え急速冷凍しています。こうすることで肉自体も旨味を増すんです」。

温泉焼酎「にはち蔵」は、温泉水を凍らせた温泉ボールでいただくと、さらにまろやかな口当たりに。食事との相性を考えて作られたからこそのマリアージュだ

たもぎ茸は、天ぷらで登場。食べるタイミングで揚げ立てを味わえるのも、カウンターの魅力。美しい色合いの天ぷらは、口に運ぶと広がる旨味に驚くはず。「旨味が強いので炊き込みご飯などでも使っていますが、加熱すると黄色が消えてしまうという特性があるんです。天ぷらが、美しさを保ったまま味わっていただけるベストな調理法ですね」。

揚げ物。車海老・たもぎ茸・キクラゲの天ぷら

夕食は全部で10品ほど。川野さんの語りと併せて、食事が終わる頃には、すっかり人吉・球磨の虜になっていることだろう。

「星のテラス」では、焚き火と星空を楽しめる

旅をしていると、不思議に思ったことがないだろうか。それは朝食だ。夕食後の満足感から、「もう朝ごはんは食べられない」という言葉が出てくるにも関わらず、また食べてしまう。「翠嵐楼」の朝食にも、そんな魅力が詰まっている。

自家製米に、削りたてのかつおぶし、焼酎粕を食べて育ったブランドたまご「球磨球子」でいただく卵かけご飯。温泉水入りの湯豆腐。「緑屋本店」の味噌を使った味噌汁……。これだけのボリュームを食べてしまう、いや、多くの人がご飯をおかわりしてしまうほどだ。

あっという間の1泊2日は、美味しく、湯浴み三昧の時間。後ろ髪引かれながら、再訪を決意することだろう。

店舗情報

住所:熊本県人吉市温泉町2461-1

TEL:0966-23-2361※完全予約制

営業時間:チェックイン15:00/チェックアウト10:00

定休日:不定休

公式HP:https://www.suiranrou.jp

プレミアムコースのご予約

プレミアムコースは熊本の四季折々の食を楽しんでいただくために、各店舗の食材で内容が変わります。内容については店舗に直接お尋ねください。

翠嵐楼プレミアムコース(1泊2食)

料金:税込 50,000円※完全予約制

予約方法:専用サイト(対応言語:日本語)

予約サイトはこちら

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