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出会いが重なり、鉄板を舞台に生まれる美食
KIJIYA / 池田 英光

Prolougue

contents

Story1 シェフの物語

路地裏で味わう、唯一無二のKIJIYAスタイル

熊本中心市街地、メインストリートの路地裏にある「KIJIYA」は、「鉄板焼きとお好み焼きのお店」と掲げてはいるものの、ノンジャンルの料理が味わえる一軒。店主・池田英光さんが、この店のために特注したという厚さ20mmの鉄板を前に手際よく調理する姿は、路地を歩く人々をも惹きつけるほどダイナミック。圧巻のスタイル、料理のジャンルは、まさに自由。池田さんが独学で身につけた技術を余すことなく表現しているのだ。

下通で老舗書店「三陽書店」を営む両親の背中を見て育った池田さんは、幼少期から商いを身近に感じていた。「いつか自分も店を持ちたい」と思うようになったのは自然な流れで、兄もまた、「KIJIYA」近くでブティックを営んでいる。とはいえ、最初から飲食店で修業を積んだわけではなく、ホテルマンとしてスタート。その後、お好み焼き専門店で基礎を学び同店をオープン。2024年2月17日に10周年を迎えた。

野菜・肉・魚…、鉄板の上にずらりと並ぶ食材の数々。厨房の相棒・中野大生さんとの掛け合いも素晴らしく、2人の料理人がタイミングを計りながら焼き・蒸しが繰り返される様は目が離せず、提供される料理一皿ひと皿、存分に引き出された食材の旨みに驚き、感嘆の声をあげる。ライブ感を間近に愉しめるカウンターは常に満席という、熊本を代表する人気店の一つだ。

現在、「KIJIYA」で扱う食材の多くが、無農薬や自然栽培といった安心安全な農法を採用して育てられたものが多い。「オープン当初は県産食材という点を意識して使っていましたが、ナチュラルワインに出会うとその魅力の虜に。そこからですね、食材もワインもナチュラルに切り替えていったのは」。さまざまなシェフや生産者との出会いが刺激となり、自由なスタイルを生み出していった。

ちなみに、ナチュラルワインを幅広く揃える同店。「ただ、自分が好きなんです」と話す池田さんのストックは、実に1000本ほど。もちろん店には入りきれず、コンテナを借りて保管しているという。

さらに驚くべきは、自らもまた生産者であること。こう言うと、「使う分だけを作っているだけなので、そこまでは…」と謙遜されそうだが、手入れの行き届いた畑と朝日を浴びて輝く野菜を見ると、鉄板の上の食材のように、池田さんの愛を感じずにはいられない。

畑をはじめたのは4年前。コロナ禍で時間ができたこともあり、奥さま・千昌さんのご実家の畑を利用させてもらえることに。宮崎県五ヶ瀬町まで車を走らせ、畑の手入れをする日々が始まった。当初は炭素循環農法をおこなっていたが、ある時、「何もしなくても育つ」ということに気づいた池田さん。余計なことをせず、土や野菜が持つ力を活かして育てる栽培方法に切り替えていった。

池田さんの畑は、冬野菜と夏野菜に分けられており、訪れた日は、収穫を終えた夏野菜が立ち枯れている隣で、イキイキとした冬野菜が育っていた。この後、立ち枯れた夏野菜からタネをとり、土にすき込み、次のシーズンに活かされる。無駄のない畑だ。

野菜を育てるだけでも大変なことだが、片道60kmほどの道のりを週2回わざわざ通っている池田さん。「高速が開通して、ちょっと近くなったのは嬉しいです」と笑顔を見せながら、「熊本にはこだわって育てた美味しい野菜がたくさんあるので、買おうと思えば買えるんですけど、珍しい野菜を育てたかったのと、細かなことをコツコツと続けることが好きなので、自分の性格に合っていたようです。もちろん、妻が一緒に手伝ってくれることも大きいです」。6年ほど前から「KIJIYA」を手伝うようになった奥さま・千昌さんがいるからこそ、池田さんが独自のスタイルを続けられているのだ。

夫婦の絆と、温かな空気が流れる店。それが「KIJIYA」。つい、ニヤけてしまう。

Story2  生産者との物語

縁がつながり、刺激を与え合う仲に

自らも野菜を育てているからこそ、生産者への尊敬の気持ちが人一倍大きい池田さん。5年ほど前に出会った山鹿市菊鹿町の加藤さんご夫妻も、池田さんに大きな刺激を与え続けている生産者だ。「お二人は本当にすごい。無農薬・化学肥料を使用しない農業をされているのですが、田んぼに直接タネを蒔いてお米を育てるなど、されていることに驚くばかりです」。

各地に畑や田んぼを持つ加藤猛さん・尚美さんご夫妻は、20年ほど前に東京から移住し新規就農した。東京時代には、池田さんと同じくホテルマンだったというお二人。そんな共通点も縁だ。

土や環境に合わせて育てる野菜の品目を選び、自然農法をおこなっている加藤さんご夫妻。「植物って人を感じているんです。私たちに今、必要な命が自然と育ち、それをいただくと元気になるんですよ」と教えてくれた尚美さん。土や野菜と対話するように農業を行っているお二人。野菜だけでなく、その笑顔からも元気をいただける。

「お邪魔すると食事を振る舞ってくださるのですが、それが本当に美味しくて。尚美シェフって呼んでいます」。池田さんは、お二人の生き方に惹かれ、そして、胃袋もしっかりと掴まれているようだ。

一般販売を行っていない加藤さんの野菜は、縁がつながったレストランなどで味わえる。このように、まだ一般には知られていない貴重な食材に出会えるのも、池田さんが常にアンテナを張っているからだろう。

「KIJIYA」をキッカケに、さらなる縁がつながっていったという畜産農家もいる。菊池市七城町で“菊池源吾牛”を育てている増永優樹さんだ。店で扱う県産牛を探していたところ、千昌さんがSNSで発見。「早速、見学させていただきたいとお願いして、はじめて牛舎を訪れました」。

「これから菊池源吾牛ブランドを広めていこうと、インスタを始めたばかりの時にDMがきて驚きました。しかも、現場を見に来てくれるんだ!って」。畜産農家としての歴史は長いものの、ブランディングははじめてのこと。手探り状態の中でのスタートだっただけに感動が大きかったと、奥さま・増永直子さんは振り返る。

有機米を育て、その稲わらやアマニ飼料を食べて育つ“菊池源吾牛”。その排泄物は肥料となり、有機農作物の成長に役立つ、循環型有機農畜産業を行っている。簡単にはできないこだわりを続けているからこそ、現場を見て、想いを聞き、大切にしてくれる池田さんには、「出会えたことに感謝」と目を潤ませる。

スタッフと娘さんが同級生だったことから縁がつながったという上妻利弘さんは、国内外で活躍する彫刻家の一人。「KIJIYA」では器を扱っていたが、今回、カトラリーレストをオーダーした。「フォーク・ナイフ・スプーン・箸といった、コースで使うカトラリーが一度に乗るサイズが欲しかったんです。料理は器で雰囲気が変わるので、唯一無二の上妻さんの作品は欠かせません」。

「日常的なものにアートを取り入れることに興味があって、娘がカフェをオープンする際に食器を作ったんです。それをきっかけに、レストランからオーダーをいただくようになりました」と上妻さん。使用する木材の多くは、地元県産材の木。丸太で購入し、長い時間をかけて乾燥させたものを適度なサイズにしてから、小刀一つで仕上げていく。

「以前、ワークショップで作った木べらは、今でも店で使っています。もくもくと削り続ける作業が好きでした」と話す池田さん

玉名郡和水町にある「kinon」。上妻さんの作品が並び、購入することも可能

機械を使えば一瞬で完成する木工作品を、あえて小刀一つで仕上げる上妻さん。野菜も肉も、時間をかけ、手をかけ、愛情を注ぐ人ばかりと池田さんは縁でつながる。「時代と逆行する」これが池田さんと生産者の大きな共通点。一口味わうたびに、いろんな人々の顔が浮かぶ「KIJIYA」の料理。プレミアムコースのはじまりが待ち遠しい。

Story3 プレミアムコース

鉄板を舞台に、五感で愉しむプレミアムコース

プレミアムコースの舞台は鉄板。そして、特等席は、そのライブ感をダイレクトに堪能できるカウンター席。前菜にはじまり、魚・肉料理、お好み焼き、デザートといった7~8品が味わえ、ナチュラルワインとのペアリングもオーダー可能だ。

ふっとカトラリーに目を向けると、上妻さんのカトラリーレストがそっと置かれている。手彫りだからこその表情が美しく、木の温もりを感じ、これから始まる食事の時間に期待せずにいられない。

「KIJIYA」スタイルを感じる最初の料理は、前菜の「畑のサラダ」。加藤さんや池田さんの農園から届いた多品目の野菜を、ピンセットで一つひとつ丁寧に盛り付けたもの。

市場に出回らないような小さなカブや、カボチャのムース、野菜くずの出汁を橙でのばして泡立てたドレッシングが、野菜に絡みつき味わいを一つにまとめる。

前菜「畑のサラダ」

目の前の鉄板は、場所によって温度を変えることで、料理提供の時間を逆算し、野菜・肉・魚を一気に調理することを可能に。鉄板の上の食材からは、音や熱気、そして香りと、さまざまな刺激を与えてくれる。

魚料理は、皮目のみを焼き、蒸すを繰り返した後、寝かせることでゆっくりと火入れ。この日はサワラに池田さんの黒キャベツが添えられ、加藤さんのカリフラワーと落花生のソース、イカスミパウダー、柚子でいただく。

魚料理「鰆のポワレとカリフラワー 落花生ソース」

通常のコースでは、“菊池源吾牛”のモモ肉を使用しているが、プレミアムコースではヒレ肉を採用。

両面を軽く焼き、寝かせている間に、加藤さんのネギに焦げ目をつけながら焼き、蒸して仕上げていく。

肉料理「菊池源吾牛のヒレステーキ」

「KIJIYA」を代表するお好み焼きは、コースに欠かせない。焼き上がりの厚みからも、そのふっくらさを読み取れる、美しいお好み焼きが提供される。

たっぷりのキャベツにブランド豚“コーシンポーク”が入り、仕上げのソースは、野菜出汁やフルーツ、醤油、スパイスなどをブレンドしたオリジナル。完成までに2日間を要する無添加ソースだが、なんと商品化が進んでいるそうだ。

お好み焼き

多くを語りすぎず、自らの努力など微塵も感じさせない池田さんは、パフォーマーのように魅せる料理人。鉄板ショーと共に繰り広げられる美食の数々、ナチュラルワインとのマリアージュを路地裏の隠れ家で味わえば、唯一無二の思い出が刻まれることだろう。

店舗情報

住所:熊本県熊本市中央区南坪井町7-17オツヅキビル1F C号室

TEL:096-352-6222※コースは完全予約制

営業時間:17:00〜23:00(オーダーストップ22:00)

定休日:木曜

公式HP:https://www.instagram.com/kijiya_teppanyaki/

プレミアムコースのご予約

プレミアムコースは熊本の四季折々の食を楽しんでいただくために、各店舗の食材で内容が変わります。内容については店舗に直接お尋ねください。

KIJIYAプレミアムコース

料金:税込15,000円、ペアリングは税込24,000円(※完全予約制)

予約方法:InstagramのDMにて(対応言語:日本語)

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